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 仮想から現実へ? 来年春夏のファッションは、この秋冬のトレンドだった80年代調に代わって多くのブランドが90年代スタイルを登場させた。90年代、派手さを避けたミニマルな表現は、バブル時代への反動といわれた。だがその後に起きたITや金融バブルが再びはじけた今、よみがえったそのスタイルはどんな意味をもっているのか。環境問題が深刻化する中で、新たな90年代調には、一見軽やかだが地に足がついた現実味が感じられることは確かだ。

 90年代スタイルのポイントは、日常的に着られるリアルクローズということだった。過剰な装飾やボリュームを省いた無彩色でシンプルな色や形。伝統のエレガンスの文脈とは異なるストリートスタイルや下着、メンズ風、スポーツウエアなどがデザインの題材となった。

 2010年春夏コレクションでも、装飾をそぎ落としたスーツやミニマルドレスが目立ち、その一方で穴あきのシャツや裾(すそ)がほつれたままのジャケットなど90年代前半に注目されたグランジルック、スリップやブラなどを取り入れたランジェリースタイルなどが一斉に復活した。

 スタイルは同じでも、当時とはかなり異なる点は、90年代の様々な要素が自在にミックスされていることだ。それがデザイナー側の押し付けではなく、着る側の自由をも誘う提案に見えた。

 もうひとつは、素材がソフトで極めて軽いこと。90年代は、80年代の保守的な高級志向へのアンチテーゼとして打ち出されたため、ストイックでどこか肩に力が入った印象だった。

 しかし今回は、リラックスしていて色使いもロマンチックな淡いパステルカラーが中心だ。

 今シーズン、多くのデザイナーが「セレブやショーの最前列の客ではなく、普通に生活する、自立的でかっこつけすぎない今の女性たちのために」などと語った。こうした変化の背景にあるのは、ファッションにおける女性像のとらえ方が変化したからなのだろう。

 ネット配信などの同時中継に踏み切ったブランドが飛躍的に増え、多くの人が同時にショーを見られるようになったことも、この意識の変化を示しているように思える。

 90年代スタイルは、米国を始めとする景気の回復とともに、形はシンプルなリアルクローズでもスーパーモデルしか似合わないほど細くなり過ぎて着られなくなったり、素材が豪華すぎるほどになったりして形骸(けいがい)化し、着る側の現実の女性たちへの配慮は希薄だった。だが10年春夏の変化は、現実の女性像や、それを取り巻く世界の現実への意識が90年代当時とは大きく違うことをあらわしている。

 精神科医の香山リカさんは「90年代のバブル崩壊後は、いずれ元に戻るという見通しがあったが、今はもっと切実」と話し、「80年代調の外見が実態とそぐわないと気付いて、それを現実とちゃんとシンクロさせたくなってきたのでは」と分析している。(編集委員・高橋牧子 写真・大原広和氏)

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